近年、生成AIや大規模言語モデル(LLM)をはじめとするAI技術の進歩が、建築設計のプロセスを大きく変えています。特に2024年以降、多数の設計事務所が試験導入を経て本格的にAIツールを業務フローへ取り込み始めました。Geo Week News (2024) のレポートによると、2024年の時点で「AEC企業の68%がAIツールを利用・試験中」と報告され、AI導入による生産性向上は25〜30%に達するとの試算もあります
→ Geo Week News: AI-Powered Scan-to-BIM is Transforming Architectural Design
こうした急速な普及の背景には、以下の要因が挙げられます。
- BIM・クラウド技術の普及による設計データの集中化・デジタル化
- 生成AI・LLMの技術進歩とコスト低下
- ツール群の進化により、比較的簡単にAIを導入できる環境が整いつつある
また、「設計そのもの」だけでなく「設計付随業務の効率化」や「プロジェクト全体の最適化」にもAIを活かす事例が増えています。本記事では、2024〜2025年に注目されるAI活用事例を設計支援/ナレッジ管理/コラボレーション支援/プロジェクト管理/エラー防止の5つの側面からご紹介します。
1. 設計支援におけるAI活用
1-1. レイアウト自動生成(Generative Design)
Generative Designは、AIが法規や敷地条件、要求事項をもとに多数のプラン案を生成し、最適解を提示する技術です。
代表的なツール例:
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ARCHITEChTURES
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Maket.ai
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Autodesk Forma
これらは入力した敷地形状や用途、法規を考慮し、多数のプランやボリューム案を数分で出力します。従来は人手で数日かかった初期検討が、大幅に短縮されるうえ、多様なパターンから最適解を検討しやすくなります。
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Patriarche(フランス) はAutodeskのAIツールを活用し、都市計画段階のボリューム検討を2日→1.5時間に短縮
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Autodesk: How AI in architecture is shaping the future of design, construction (Patriarche case)
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MBH Architects(米国) は大規模住宅プロジェクトでAIによる設計最適化を実施。基本計画検討期間を2週間→6時間に短縮し、コスト・工期・CO2排出を50%削減
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Autodesk: How AI in architecture is shaping the future of design, construction (MBH Architects case)
1-2. 要件整理・プログラミングの自動化
設計フェーズの前段階となる
要求仕様やプログラムの整理にも、LLM(ChatGPTなど)の応用が進んでいます。プロジェクト要件書など大量の文章をAIが解析し、要件や管理ルールを自動抽出・一覧化します。
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オーストラリアの設計事務所が自社標準でチューニングしたカスタムGPTモデルを活用し、プロジェクト要件定義の抜け漏れや不整合を自動チェック
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digitalBBQ: Automating Project Requirements Analysis for Faster BIM Planning
従来、手作業で数日かかっていた要件整理が
数時間以内に完了し、ヒューマンエラーも削減されています。
1-3. 図面・BIMモデリング支援
CAD/BIMソフトウェア上で動作する
AIアシスタントが登場し、作図やレイアウト修正を自動化する事例が増えています。
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EvolveLab社の「Glyph Co-Pilot」: 設計者の指示に応じて図面やレイアウトを自動作成
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AEC Magazine: EvolveLab – bringing AI to architecture
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Kaedim: 手描きのスケッチをアップロードすると、3Dモデルを自動生成
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Enscape Blog: Top 16 AI Tools for Architects in 2025 (Kaedim)
反復的なモデリング負荷が軽減され、設計者はよりクリエイティブな検討に専念できるようになります。
2. ナレッジマネジメントへのAI導入
2-1. AI検索エンジンと要約
社内に蓄積された数多くの設計データや図面、報告書を
自然言語ベースで検索・要約するソリューションが登場しています。
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Synthesis AI Search (Knowledge Architecture): 「過去の病院プロジェクトで採用した構造システムは?」といった問いに対し、関連資料や要点を抽出して回答
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Knowledge Architecture: Synthesis AI Search
2-2. 自社データによるAI学習 (設計ナレッジの内製化)
大手設計事務所などは、
過去プロジェクトの詳細データを学習した独自AIを社内で構築する動きを見せています。汎用AIではなく自社の設計標準やスタイルを深く学習しているため、
安全かつ精度の高いナレッジ再利用が可能です。
- RIBAの調査によると、大規模事務所では社内専用のAIを構築し、類似案件の参照や標準図面の自動提案などを実現
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RIBA: Artificial Intelligence – how are architects using AI right now...?
3. コラボレーション支援へのAI活用
3-1. 打ち合わせ議事録・レポートの自動作成
音声解析AIにより、会議や現場打合せの議事録を自動生成し、要点整理するサービスが普及し始めています。
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Cogram: 現場打合せの会話をリアルタイム文字起こしし、写真と組み合わせて検査レポートを自動生成
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Cogram Blog: 2024 Guide to Construction Document Management and AI
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Zoom/Teamsなど主要ツール: AI議事録機能が搭載され、設計レビュー会議などの情報共有を効率化。
3-2. テキスト生成によるドキュメント作成補助
生成AI(ChatGPTなど)を使い、提案書・設計趣旨書・申請書類の
ドラフト作成を自動化し、人間が仕上げる手法が拡大中です。
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ChatGPTで文章案を作り、それをベースに社内レビューを行うことで、テキスト作成の負担を大幅削減
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RIBA: AI – how are architects using AI right now...? (ChatGPT in practice)
3-3. データ統合による情報共有の高度化
BIMモデルやコスト、工程表などの情報をAIが一元的に管理し、
変更箇所や影響範囲を自動で分析・通知する仕組みも注目されています。
- 変更によるスケジュールやコストインパクトを即時試算し、関係者に共有。意思決定スピードが向上
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Autodesk: How AI in architecture is shaping the future of design, construction
4. タスク予測・設計スケジューリングの自動化
4-1. AIによるプロジェクトスケジュール最適化
大量のタスクや要件を解析し、最適なスケジュールやリソース配分を提案してくれます。OracleやAutodeskなどもこの分野の開発を進行中です。
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納期遅延のリスクを早期警告し、タスクの並行度合いを自動最適化。PMの経験則頼みから
データ主導へ転換
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Oracle: AI in Construction – benefits and opportunities
4-2. 進捗予測とリソース計画の自動化
AIモデルがプロジェクトの各種文書や過去実績を解析し、ボトルネック予測やリソース需要の算定を自動的に行います。
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Cogramのようなサービスでは、プロジェクト文書をAI解析し、追加タスクやリソース不足を早期発見して管理者に提案
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Cogram Blog: 2024 Guide to Construction Document Management and AI (AI insights)
5. エラー防止・品質チェックの自動化
5-1. 図面チェックと設計エラー検出
大規模図面のクロスチェックや注釈漏れなどを
AIが自動検出するソリューションが登場しています。
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Firmus: 図面をアップロードするだけで、不備や不整合箇所をAIが洗い出し、是正指示リストを作成
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Navitas (Medium): Why We Invested in Firmus. AI-enabled risk management for design
設計段階のミスによる手戻りコストはプロジェクト総費用の5〜8%にのぼるため、
早期検出の価値が非常に大きいとされています。
5-2. BIMモデル検証とクラッシュ検出
3DのBIMモデルが当たり前になりつつある今、
クラッシュチェックやデータ検証も機械学習ベースで高度化しています。
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OpenSpace, Cintoo, 3D Repo, Verityなど: 現場スキャンデータとBIMを突合し、衝突や不整合を自動検知
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Geo Week News: AI-Powered Scan-to-BIM is Transforming Architectural Design (clash detection)
将来的には、建築基準適合性や構造リスクのAI評価も実用化される見込みです。