「画像をそのまま検索に使う」と聞くと、思わず「本当にそんなこと可能なの?」って思いませんか? それがVision RAGの世界です。今回のレポートでは、Vision RAGがいまどんなことになっているのか、その基本原理から使い所までをざっくり、でもしっかり深く解説していきます。
「ちょっと待って、RAGってテキストに外部知識を取り込むアレでしょ?」──そう思うあなた、正解です。だけどVision RAGは、画像そのものをまるっと検索に活かす新しい流れを築きつつあるんです。気になりますよね?
それでは早速、本題へ行きましょう!
1. Vision RAGの根本原理
1.1 テキストRAGとの違い
まずはおさらいから。RAG(Retrieval Augmented Generation)は、大規模言語モデル(LLM)が外部知識を探してきて回答をより正確にする仕組み。テキストRAGだと文書をテキストベースでインデックス化して、ユーザのクエリに近いテキスト断片を取ってくる流れですよね。
一方、
Vision RAG (VRAG) は画像やレイアウトなどの
視覚情報をそのまま捉えて検索・回答に使う仕組みです。ここがポイント。テキスト化しなくても
画像そのままを埋め込みにしちゃうんです。例えば
VisRAGという手法では、PDF文書でも全部まとめて「画像」として扱います。結果どうなるか? レイアウトや図表なんかが失われにくいし、情報欠落も起きにくい。実際にVisRAGでは、テキストRAGよりも
25~39%の性能向上が報告されているとか。

1.2 画像ベース埋め込みとインデックス構築
Vision RAGのパイプラインはテキストRAGと似ていますが、扱うのが
視覚データ。たとえば文書全体をページ画像ごとにVLM(Vision-Language Model)で埋め込みベクトル化し、ベクトルデータベースに格納します。
クエリが来たら、そのクエリ自体を同じ埋め込みモデルでベクトル化して近い文書画像ベクトルを探してくるイメージ。ここでのアプローチはいくつかあって:
-
(a) 他モーダルのテキスト化
まず画像からOCRやキャプション生成して、テキストに変換→テキストRAGに投入
- 既存のテキスト検索システムを使いやすいけど、細かいビジュアル情報が欠落しやすい
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(b) マルチモーダル埋め込みの共有空間化
画像もテキストも共通のCLIP系モデルでベクトル化し、同じ空間で検索
- 単一ベクトルで表現するから実装しやすいが、細かい構造・文字情報は薄れがち
-
(c) モーダリティ別インデックス & Late Fusion
画像用とテキスト用を別々に検索→最後に合体して再ランク
- モーダルごとに最適なモデルを使える反面、最終的な統合(リランカー)実装がやや複雑
これを聞いて、「いやぁ、一番すごいのはどれ?」と気になるかもしれません。でも場面やコスト次第です。
(b) は導入しやすく、
(c) はカスタマイズ性が高い。
(a) は既存システムを流用しやすいけど情報欠落リスクがある──と、それぞれいいところ・弱いところがあるんです。
1.3 高度なマッチング手法(Late Interaction, MaxSimなど)
画像検索でも、単なるコサイン類似度検索だけじゃなくて、もっと細かく噛み合わせる技術が注目されています。
例えば
ColBERTというテキスト検索の考え方を進化させた
Late Interaction。ドキュメントを複数ベクトル(画像なら領域ごと)に分割し、それとクエリトークンのベクトル群を組み合わせて最大類似度を取る方式です。画像をグリッドに分けて
「ここには数字」「こっちは見出しっぽい」みたいに細かく判別し、クエリとの類似を計算していきます。
最近は
ColPaliがこのLate Interactionを拡張した例として話題です。使われているモデル
PaliGemmaはOCR機能を内蔵していて、表や図内の小さい文字までしっかり拾ってくれます。こういった仕組みにより、
単一ベクトルでまとめると失われてしまう細部も見逃さずマッチングできるわけです。
「めちゃ細かいけど、その分コストも高いんじゃ?」と思う方、ご名答。とはいえテキストとクロスエンコードするよりは高速で、バランスが取れたアプローチなんです。
2. 画像ベース検索における情報精度と解像度
画像って、風景写真から図表、手書きメモまで千差万別ですよね。その違いがVision RAGでどう影響するかを整理してみましょう。

2.1 図表・写真・手書きの違い
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風景写真:色や形の情報は豊富だけどテキスト変換には向かない。
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図表:構造化されていてテキスト変換もしやすいが、レイアウト情報がカギになったりする。
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手書きメモ:字が汚かったり個人差が激しくてモデルの認識精度も不安定。
Vision RAGでは、モデルがどの程度細かい文字や数値を「読み取れるか」が直結して検索精度に影響します。クエリが「2024年の売上が記載されたグラフを探して」といった
数値検索だと、モデルのOCR精度が鍵になりますね。
2.2 高解像度・OCRハイブリッド戦略
「どうしても小さい文字まで逃したくない」ときはどうするか?
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高解像度でモデルに通す
- 画像内テキストだけ
別途OCRしてテキストインデックス化
こんなハイブリッドな作戦を選ぶ企業も多いです。たとえば特許文献や財務報告みたいに、見落としが致命傷になる場面ではかなり重要になりそうですよね。
2.3 検索が得意なケース・苦手なケース
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得意なケース:モデルが視覚的特徴を理解し、クエリと噛み合うとき。
グラフ、チャート、図解など「明確な構造と注釈」があるもの
- 「南国リゾートっぽい写真」といったシーン分類系
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苦手なケース:
細部に依存する問いや
未学習の文字を扱うとき。
「この表の数値は?」といったドンピシャの数値検索
- 手書きの珍しい固有名詞
- 画像内の超小さな文字や局所的な依存関係(「左から2番目の人」など)
ここをうまく見極めないと、Vision RAG入れてみたものの「あれ、全然マッチしないんだけど…」となる可能性もあるわけです。
3. 精度・意味抽出能力に基づくメリット・限界
では「画像使えるって何がいいの?」というあなたのために、メリットと限界を整理してみましょう。
3.1 メリット・利点
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視覚情報を含む完全なコンテキスト保持
OCR前処理しないから、
レイアウトや図表を含めてそのまま埋め込める。
- 契約書や技術図面で「文字以外」の要素(署名欄の有無、図中の配線など)が検索に有用。
-
回答精度・検索性能の向上
VisRAGなどの実験で、マルチモーダルQAの正解率が25~40%アップ。
- テキストだけじゃ拾えなかった
画像中の手がかりが増える。
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新しい検索軸の誕生
画像を例として「これと似たグラフ」「レイアウトがこれっぽい報告書」を探す。
- テキストで検索する以上に
直感的・ビジュアルな検索体験が可能。
-
システム構築のシンプル化
「OCRをカスタムで回す」「テキスト抽出がうまくいかない」などの前処理負担が減る。
- 強力なVLMが1個あれば多様な書式に対応でき、今後モデルだけ差し替えればOKという拡張性。
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マルチリンガル対応の余地
テキストRAGでは言語別にモデル用意する必要があるが、VLM次第で1モデル多言語対応も視野に。
- 英語メインのColPaliも他言語でそこそこ性能を発揮、追加学習で多言語化も可能。
3.2 限界・課題
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モデルの未成熟とドメイン依存
テキストモデルほど枯れておらず、専門ドメインの図表・記号を理解するには追加チューニングが必要。
- コミュニティや商用APIも少なく、OSSモデルを自前で動かすハードルが高い。
-
細部情報の取りこぼし
小さな文字や数字まで正確に埋め込めるとは限らない。
- 大事なデータ抽出には、あとで画像を再度解析するなど二段構え対策が必要。
-
計算コスト・スケーラビリティ
画像ベクトルはテキストより大きい。ページごとに大量ベクトルを保持するLate Interaction系は特に。
- VisRAGはスケーラビリティ重視で1文書=2304次元1ベクトルにしているなど、工夫が必要。
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結果の可解釈性・エビデンス提示
テキストなら関連箇所をすぐスニペットで見せられるけど、画像は“見せてそれを人間が読んで確認”する必要がある。
- モデルが要約を生成しても誤りがないか判断が必要。ハイライト表示などの技術もまだ発展途上。
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セキュリティ・プライバシー対応
画像化された個人情報や機密図面がベクトルDBに入ることのリスク管理。
- アクセス制御やオンプレ運用のコスト問題も大きい。
4. 実践的な画像検索・Vision QAのアイデア
それでは、実際どう使えそうか。AIエンジニアのあなたにピンとくるように、シチュエーション別に紹介します。
4.1 類似設計図の検索と差分抽出(建築・製造分野)
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どんな場面?
建築や製造業では、同じような図面を使い回したり、ちょっとした修正箇所を見つけたいシーンがよくありますよね。
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どうやるの?
Vision RAGで図面画像をベクトル化しておけば、平面図をクエリにすると似たレイアウトを検索→過去の事例を再利用。
さらに、新旧図面の差分をモデルに照会させ「窓の配置が変わってる」「配管が追加された」みたいな自動検出も期待できる。
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注意点
建築ドメイン特有の記号や線情報を読み取れるように専門モデルのチューニングが必要。
4.2 人物画像を軸にした類似スタイル画像検索
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どんな場面?
社内の広報やファッション撮影などで、「この人が写っている他の写真ない?」と探したいとき。
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ポイント
Vision RAGだと、服装や背景、ポーズなどを含めて総合的に検索できる。スタイル重視の類似検索がやりやすい。
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注意点
個人を厳密に識別する用途(防犯カメラの顔認証など)は専門のモデルが必要。ここでのRAGはあくまで“なんとなく似てる”写真検索向けが主。
さらにプライバシー管理は必須。意図せず個人情報を引き当てないよう運用ルールをしっかり。
4.3 図表・手書きメモを含むスキャン資料に基づくQA
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シチュエーション
紙のホワイトボードを撮影したものやスキャンPDFをAIに読ませて、「ここ、何が書いてある?」と尋ねたい!
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実装の流れ
大量のスキャン画像を事前に埋め込み→ベクトルDBに登録
- 「会議Aで書かれたボードの数値まとめを教えて」とクエリ→類似画像を検索
- 生成AIが画像の内容(テキスト、図)を要約して回答
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留意点
手書き文字の認識精度次第では誤読も多い。
DocVQA的な研究が盛んで今後もっと精度が上がる見込み。
5. Vision RAGの応用シナリオと今後の展望
いかがでしょう。画像を使ったRAGなんて、数年前までは「ちょっと面倒そう」と思われていましたが、いまやかなり現実味のあるテクノロジーになりつつあります。
5.1 業務への活用ポテンシャル
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設計・研究・教育…
過去の設計図やレポートを横断検索→似た失敗パターンの検知や参考事例の発見
- 視覚情報を含むプレゼン資料を一気に調べて、グラフの根拠を瞬時に提示
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医療分野
X線・MRI画像から類似症例を引き当て、診断の補助
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製造業
検品画像から既知の不良パターンを検索し、不具合原因を推定
「ここに挙げたのはほんの一例」といえるほど、あちこちで活躍のチャンスがありそうです。
5.2 実務導入に向けた課題
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モデルとデータの最適化
業務ドメイン特有の図表や専門記号を理解させる追加学習が必須になる場合も。
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システム規模と検索速度
数百万の画像を全部グリッド埋め込み…となるとメモリや検索レスポンスをどう確保するか。
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運用面(根拠提示・人間のレビュー)
AIのマッチングが誤ったときの再検証フローを作る必要がある。
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倫理・プライバシー対応
機密情報の画像化や個人情報を含む写真をベクトルDBに入れていいのかという懸念も。
5.3 まとめ
2025年のいま、Vision RAGは“新しいけど確実に伸びている”技術分野です。
「テキストと同じように画像からも知識を引き出す」──この発想の広がりによって、設計や研究、教育、ヘルスケアなどさまざまな場面で
情報活用のスタイルが大きく変わるかもしれません。
みなさんもAIエンジニアとして、今後の進化に備えてアンテナを張っておく価値は大いにあるはず。もちろん、モデルの性能向上を待つだけでなく、自分たちでドメイン適応を仕掛けるのもエンジニアの醍醐味ですよね。
Vision RAGを上手に取り入れて、
「こんなに見つけやすくなるんだ!」という体験をユーザーやチームに届けてみてはいかがでしょう。未来の業務フローが大きく変わるかもしれませんよ。
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