この業務、OR-Toolsで解けるじゃん! – 最適化ツール入門

この業務、OR-Toolsで解けるじゃん! – 最適化ツール入門

2025年4月14日
TAKUJI OGAWA

スケジュール調整地獄からの脱出

突然ですが、「明日のシフト、どう埋めよう…」と頭を抱えた夜はありませんか? あるいは納期直前にルート配送計画をエクセルで組んでは、無情にもトラックの積載オーバーに気づく――なんて経験はあまりないか…。機械学習モデルを回すのとは別次元の“現場のパズル”に直面して、「これ、調整するのキツくない?」と感じること、たまにありますよね。 実はそれ、Google OR-Tools(Operations Research Tools)という最適化ツールがあれば解決できるかもしれません。AIで予測も大事ですが、最適化で計画を立てるのも同じくらい重要です。OR-Toolsは言わば「業務のパズル」を解くためのGoogle謹製ツールキット。今回は、そのOR-Toolsが何者で、何ができて、どう使えるのかをユーモアを交えつつご紹介します。最適化とか聞くと難しそう…という方も大丈夫。読み終わる頃にはきっと「この問題、OR-Toolsで解けるじゃん!」と思えるようになります。

最適化問題って何?AIエンジニアにも関係あるの?

まず背景から。最適化問題とは、一言でいうと「色々な制約条件の中でベストな答えを探す問題」です。例えば以下のようなものです: - スケジューリング問題 – 複数のタスクや人員を時間割に割り振る。例:従業員のシフト表作成やプロジェクトのタスク管理 。 - ルーティング問題 – 複数の地点を巡回する経路を計画する。例:配送トラックの最短ルート計算や営業担当の訪問順最適化。 - 割り当て問題 – リソースや人をタスクにマッチングする。例:業務案件をチームメンバーに割り振る、最適なペアを組む(ハンガリアン法のような割当問題)。 - 制約充足問題(CSP) – パズルのように制約を満たす解を探す。例:時間割編成、Sudokuやナンプレの自動解答、施設レイアウト計画。 - 線形計画・整数計画(LP/MIP) – 数式で表される目標を達成する。例:工場の生産計画で利益最大化、予算内で効果を最大にする資源配分 。 ご覧の通り、「最適化問題」は実は日常業務のあちこちに潜んでいます。エンジニアのみなさんが普段向き合う課題にも、よく見ると機械学習で予測する部分と、予測を元に計画・最適化する部分があるはずです。後者で頼りになるのが今回紹介するOR-Toolsというわけです。 例えば、需要予測はAIモデルに任せ、その予測結果をもとに最適なスケジュールや配分を計算するのがOR-Toolsの出番です。昨今話題の生成系AI(LLM)との合わせ技も面白いところ。大規模言語モデルに「こういう制約でスケジュール組んで」と日本語で要件を投げたら、それをOR-Tools向けの数理モデルに落とし込んで解を探す…なんて未来もすぐそこかもしれません。要するに、AI × 最適化の組み合わせは、業務自動化の強力な武器になるのです。

OR-Toolsって何者?一言でいうと「業務パズル解決エンジン」

では本題。Google OR-Toolsとは、Googleが公開しているオープンソースの数理最適化ライブラリです。これを使うと先述のようなスケジューリングルーティング、その他もろもろの最適化問題をコンピュータで解くことができます。線形計画法や巡回セールスマン問題(TSP)、制約充足問題(CSP)など幅広く対応しており、業務で発生する「制約だらけのパズル」を解くための柔軟性とパワーを備えています。 「最適化ツール?なんだか難しそう…」と思った方、ご安心を。OR-ToolsはPython対応なのでAIエンジニアには馴染みやすく、インストールもpip install ortoolsで一発です。Googleが公式に充実したドキュメントとサンプルコードを提供しており、初心者でも試しやすいのもポイント。無料で使えるオープンソースなのに性能は折り紙付きで、実務での大規模問題にも耐えうると評価されています。実際、Kaggleの最適化コンペで上位入賞者がOR-Toolsを活用したり、OR-Toolsのソルバーが制約問題の国際コンペで優勝するなど、その実力はプロ御用達の商用ソルバーに匹敵すると言われます。 じゃあ中身はというと、OR-Toolsには主にいくつかの専用ソルバーが詰まっています。中核はCP-SATソルバーと呼ばれるもので、組合せ最適化や整数計画問題を解くハイブリッドなエンジンです。これがかなり強力で、前述の通り世界大会級の性能を発揮します。また、ルーティング専用ライブラリも含まれていて、配送経路の最適化なんかはこちらを使うと効率的に解けます 。他にも線形計画用のGLOPソルバーや、必要に応じて外部のGurobi等も統合できる柔軟性があります。要は、困った最適化課題があれば大抵なんとかしてくれる「解決屋」というイメージです。

具体例で実感:OR-Toolsで何が解けるの?

理屈はさておき、「結局何ができるの?」を具体例で見てみましょう。代表的な活用シーンをいくつか挙げてみます。 複数ルートに色分けされた車両ルート最適化の例。中央の黒ノード(0)がデポ(集配拠点)で、赤・青・黄の各ルートが異なる車両の巡回経路を示す。OR-Toolsのルーティングソルバーは、こうした複数車両の配送計画問題(VRP)を効率よく解いてくれる。 ![](/assets/nbe44a129c7c4_1744608589-khqBr4Z7SUd5DKzMsLcClobE.png) - 配送ルート最適化(配車問題): 例えばネットスーパーの配送計画。注文先の住所リストを放り込めば、OR-Toolsが各トラックの最短ルートを計算してくれます。上図はまさにその例で、中央の拠点から複数の車両がそれぞれのお届け先を回る経路が描かれています。距離や時間の最短化だけでなく、「トラックの台数を減らしたい」「各ドライバーの担当エリアを均等に」なんて要望も、制約としてモデルに組み込めます。結果、燃料代や工数の節約につながり、現場の担当者もニッコリです。実際、大手物流企業はこの手のルート最適化で配送コストを何割も削減しています。 - シフト最適化(勤務表の自動編成): 人手でシフト表を組むのは大変です。OR-Toolsなら、「連勤はNG」「各社員に週2日は休みを」といった勤務ルールをすべて制約として投入し、最適なシフト割当を自動生成できます。例えば病院の看護師シフト問題は有名で、「3日で4人を24シフトに割り当てるが連続勤務は禁止」等の条件下で解を探すデモが公式にあります 。これを応用すれば、サービス業のシフト管理プロジェクトの人員アサインだってお手の物。スタッフの希望も考慮しつつ、公平で無理のない勤務計画を立てられます。「毎週月曜のシフト調整ミーティングが不要になった!」なんてこともあるかもしれません。 - イベントスケジューリング: 学会やイベントでのタイムテーブル編成、会議室の割り当てなどもOR-Toolsの得意分野です。限られたリソース(時間・部屋・人員)をどう割り振るかという問題は、まさに制約だらけのパズルですよね。OR-Toolsで「この講演者はこの時間帯NG」「人気セッションは広い会場に」など制約を設定すれば、最適なスケジュールを提案してくれます。複数トラックのカンファレンス編成なんてまさにCSPの塊ですが、手作業で悩むより高速に調整案を出力できます。運営スタッフの胃痛が緩和されること請け合いです。 - 生産計画・在庫最適化: 製造業やサプライチェーンの世界でもOR-Toolsは活躍しています。工場の生産ラインで「どの商品をどれだけ作るか」「どの順番で作るか」を決めたり、在庫補充のタイミングを最適化したり、といった組合せ爆発しがちな計画問題に取り組めます。例えば複数工程を持つジョブショップスケジューリング問題(機械ごとの作業順序最適化)も、OR-ToolsのCP-SATで解けます。これにより納期遅れを防ぎつつ生産効率を最大化、といった恩恵が得られます 。要するに、製造現場の勘と経験と根性に科学の力をプラスできるわけです。 - その他いろいろ: 金融分野ではポートフォリオ最適化(複数の投資配分を決定)、ITではサーバーのリソース割当クラウドコスト最小化など、OR-Toolsの応用範囲は広大です 。実はGoogle社内でも、広告の配信最適化やデータセンターのリソース管理にOR-Toolsが使われているそうです 。グラフ問題にも強いので、マッチング最適化やネットワーク経路計算なんかも得意ですよ。あなたの身近な「これどうさばこう?」という課題、きっと何かしら当てはまるはずです。

導入は簡単、本格活用への一歩

「なんだかすごそうだけど、実際に使うのは大変では…?」と不安に思うかもしれません。でも心配ご無用。OR-Toolsの導入ハードルは意外なほど低いんです。Python環境があれば、前述のようにpip install ortoolsで準備完了。あとは公式ドキュメントに載っているサンプルコードを少しいじれば、簡単な最適化問題ならすぐ動きます。 基本的な使い方もシンプルで、「変数を定義して」「制約を追加して」「目的(ゴール)を設定したら」「ソルバーに解かせる」という流れ。最適化問題は変数制約目的関数という3要素で構成されます。OR-ToolsではこれらをPythonコードで直感的に書けるよう工夫されており、初めてでも写経しながら少しずつ理解できます。最初は簡単な線形最適化の例(例えば二つの変数の和を最大化する問題)から始めてみると良いでしょう。ほんの数行コードを書くだけで、「お、ちゃんと最適解出た!」という体験が得られるはずです。 もちろん実際の業務課題に適用しようとすると、問題のちゃんとした定式化(モデリング)が必要になります。でもこれも、複雑なアルゴリズム実装と比べれば “何を最適化したいか” を考えることに集中すればいいので生産的です。手探りでExcelマクロを組んでバグと格闘するより、ずっと筋が良いアプローチではないでしょうか。

まとめ:スプレッドシートで限界を感じたらOR-Tools!

AIエンジニアの皆さんにとって、Google OR-Toolsは頼れる秘密兵器になり得ます。普段は機械学習モデルやデータ分析に注力しているところへ、この最適化ツールをポンと組み合わせるだけで、解決できる課題の幅がグンと広がります。現場で「人力スケジューリングもう無理…」「Excelでの手調整は限界だ…」と悲鳴が上がったら、まさにそれはOR-Toolsの出番です。実際、OR-Toolsは物流、製造、交通、金融といった幅広い業界でコスト削減や効率化の切り札として活躍しています。Pythonに精通したAIエンジニアであれば、その強みを活かしてすぐにでも試せるでしょう。 難解な数理最適化の理屈はブラックボックスでも構いません。大事なのは「使える道具がある」ことを知っていること。そしてどんな問題にそれが使えそうかを思いつく発想力です。OR-Toolsという強力な道具をツールボックスに加えれば、明日からあなたの業務自動化アイデアは一段と冴えわたるに違いありません。最適化すべき課題に直面したとき、「ちょっとOR-Toolsで解いてみるか」と気軽に切り札を切れる――そんなAIエンジニアは格好いいですよね。ぜひ一度、OR-Toolsを手に取って、業務のパズル解決に挑戦してみてください。きっと、今まで悩んでいたのが嘘のようにスマートな解が見つかることでしょう。