最近よく目にする MCP(Model Context Protocol)を理解してみる

最近よく目にする MCP(Model Context Protocol)を理解してみる

2025年3月17日
TAKUJI OGAWA


MCP(Model Context Protocol)とは

MCP(Model Context Protocol、モデル・コンテキスト・プロトコル)は、AIモデル(主に大規模言語モデル、LLM)と外部のデータソースやツールを標準化された方法で接続するためのオープンプロトコルです。簡単に言えば、さまざまなデータ源とAIをつなぐ「共通の接続ポート」のような役割を果たします。よく引用される比喩として、「MCPはAIアプリケーション向けのUSB-Cポートに相当する」と言われています。USB-Cがデバイス間の接続を統一したように、MCPはAIモデルとあらゆるデータソース・ツールとの接続方法を統一し、AIが必要とする文脈情報を柔軟にやり取りできるようにするのです。 近年、生成AIの活用が進む中で、AIアシスタントが扱える知識やデータはモデル内部に学習済みの内容だけでは不十分になってきました。最新の企業データやユーザーファイル、各種クラウドサービス上の情報など、「データが実際に存在する場所」にAIを接続する必要性が高まっています。しかし従来は、そのたびに個別のAPI統合を実装する必要がありました。MCPが登場する以前、各AIアプリケーションごとに各データソース用のカスタム連携コードを用意しなければならず、統合の労力が指数関数的(M×Nの関係)に増大する問題がありました。Anthropic社によって提唱・オープンソース化されたMCPは、この問題を解決するために生まれた新しい標準規格です。

MCPの基本的な仕組み

MCPの基本構造はクライアント-サーバー型アーキテクチャに基づいています。具体的には、以下のような登場人物が定義されています。 - MCPホスト(Host): AIアシスタントを実行するアプリケーション本体です。例えばClaude Desktop(Anthropic社のデスクトップ向けAI)、コードエディタ上のAI補助機能、チャットボットなどが該当し、外部データへのアクセスを必要とします。 - MCPクライアント(Client): ホスト内で動作し、MCPサーバーとの1対1接続を維持する部品です。ホストからの要求をプロトコルに従ってサーバーに送り、応答をホストに受け渡します。実装上は、例えばClaude DesktopやIDEに組み込まれたモジュールや、開発者が自作する接続用ライブラリがこれにあたります。 - MCPサーバー(Server): 軽量なサーバープログラムで、特定のデータソースやツールへのアクセス機能を公開します。各サーバーはそれぞれ一つのシステムに対応し(例:Google Drive用サーバー、GitHub用サーバー、データベース用サーバーなど)、MCPプロトコル越しにその機能(リソースやツール)を提供します。 - ローカルデータソースリモートサービス: MCPサーバーがアクセスする対象となるデータの所在です。ローカルデータソースとはサーバーが動作しているコンピュータ上のファイルやデータベース、サービスのことで、リモートサービスとはインターネット経由でアクセス可能な外部APIやクラウドサービスを指します。MCPサーバーはこれらのデータに接続し、必要な操作を代行します。 この構成において、MCPホスト(AI側)は複数のMCPサーバーに同時接続できます。ホストから見ると、各種データ源に対して統一された方法(MCP)でアクセスできるため、自身はMCPクライアント経由でリクエストを出すだけで、あとはプロトコルがデータ取得やツール実行を仲介してくれます。各サーバー毎に異なる実装に個別対応する必要がなくなり、一度MCPに対応すれば多様なデータソースを扱えるという利点があります。 MCPはその通信プロトコルにJSON-RPC 2.0を採用しており、クライアントとサーバー間のメッセージ交換は定型化されています。接続の開始時にはLSP(Language Server Protocol)と同様にinitializeメッセージで互いのプロトコルバージョンや対応機能を確認しあうハンドシェイクが行われ、以降は標準化されたメソッド呼び出し(例えばtools/listやresources/getなど)によってやりとりが進みます。通信経路(トランスポート)としては、ローカル環境では標準入出力(stdin/stdout)、リモート環境ではHTTP(サーバー送信イベントSSEなど)を用いることが定められており、状況に応じて使い分けられます。 MCPが標準化する「文脈(コンテキスト)」には大きく分けて3種類の要素があります。 - リソース(Resources): モデルに提供される参照用データです。例えばファイルシステム上のドキュメントやデータベースのレコード、社内Wikiの記事などがリソースとして提供されます。リソースはモデルに現実の知識を与え、単なる一般論ではなくドメインに即した回答を引き出す材料になります。 - ツール(Tools): モデルが呼び出せる機能やアクションです。例えば「天気情報を取得する」「カレンダーに予定を登録する」「データベースを更新する」といった操作がツールとして定義され、モデルはユーザーの許可のもとでそれらを実行できます。ツールにより、モデルはテキスト生成だけでなく計算や外部システムとの対話といった拡張された能力を発揮できます。 - プロンプト(Prompts): テンプレート化された指示文で、モデルから有用な応答を得るための定型プロンプトやガイドとなるテキストです。適切なプロンプトはモデルに対するAPIのような契約になり、例えば特定のフォーマットで回答させたり手順を踏ませたりする際に用います。MCPではサーバー側がこれらのテンプレートを提供し、クライアント経由でモデルに適用することができます。 これらの要素はいずれも最終的にはモデルに与える追加コンテキスト(トークン列)という点で共通しています。ツールであれリソースであれ、モデルの入力コンテキスト内に組み込まれるデータであることに変わりはありません。ただしそれらを用途別に分けて定義・管理できることが、MCPのプロトコルとしての洗練された点です。モデル側(ホスト側)の実装は主に「ツール」の呼び出しをサポートする形で作られる傾向がありますが、必要に応じてリソースの読み込みやプロンプトの差し込みも共通の仕組みで行える柔軟性があります。 MCPの通信の流れを簡単な例で説明します。たとえば、AIモデルが「現在のポートランド(都市)の天気を教えて」というユーザー要求を受け取ったとしましょう。この場合、モデルは直接答える代わりに「天気を取得するツール」を使うべきだと判断します。MCPクライアントはまず接続済みのMCPサーバーから利用可能なツール一覧を取得します(tools/list要求)。天気取得用のツール(例: get_weather)がある場合、その名前や説明、必要な引数のスキーマなどがJSON形式で返ってきます。クライアントはこの情報をモデルに提供し、モデルがツール呼び出しを行おうとすると、人間の許可を確認した上で(必要に応じて)実際にtools/call要求をサーバーに送信します。サーバー側では外部の天気APIなどを呼び出して結果を取得し、結果データをJSON文字列等でレスポンスとして返します。クライアントはそれを受け取りモデルに渡し、モデルは得られた最新天気情報を組み込んでユーザーへの回答を生成します。この一連の処理はすべてMCPという統一プロトコル上で行われ、モデルは自らAPIキーを管理したりHTTPリクエストをコードで書いたりすることなく、必要な情報にアクセスできるのです。 このようにMCPはAIと外部システムの間の橋渡し役を担い、自分自身は重いビジネスロジックを実行するわけではありません。あくまで「AIモデル ↔ MCP ↔ データソース」間のデータや指示の流れを調整するのがMCPの役割です。これにより、AI側とデータ側の双方を疎結合に保ちつつ、高度に連携した機能を実現できます。

MCPを活用することで得られるメリット

MCPを導入・活用することによって、技術的に多くのメリットが得られます。以下に主なポイントを挙げます。 - 統一的なインタフェースによる開発容易性向上: MCP対応を一度行えば、あとは同じプロトコル経由で複数のデータソースやサービスにアクセス可能になります。従来のようにサービスごとに異なるAPIに対して個別に認証・リクエスト処理・エラーハンドリングを書く必要がなく、「一度書けば、何度でも使える」統合コードとなります。開発者にとっては実装負担の大幅な軽減につながり、新しいツールを追加する際もMCPサーバーをつなぐだけで済みます。 - M×Nの統合地獄からの解放: 前述のように、MCPは複数のAIクライアントと複数のデータソース間の接続問題(M×N問題)を、標準化によってM+Nのスケーラブルな問題に変換します。各AIアプリケーションはMCPさえ話せればよく、結果としてエコシステム全体で再利用可能なコネクタ(サーバー)の共有が可能になります。例えば一度「GitHub用MCPサーバー」を開発すれば、他のすべてのMCP対応AIでもそれを使えるため、同じ統合を何度も作り直す必要がなくなるわけです。 - 動的発見と柔軟な拡張: MCPではAIクライアントが利用可能なリソースやツールを動的に発見できる仕組みがあります。つまり事前にすべての機能をコードに書き込んでおかなくても、サーバーから提供可能な機能一覧を取得してモデルに教えることができます。これにより、AIシステムが接続された新しいサービスを自律的に見つけ出し、利用することも可能になります。新しいMCPサーバーを追加するだけでAIの能力を拡張できるため、システム全体の成長・スケーリングが容易です。 - 双方向かつリアルタイムなやり取り: MCPは持続的な双方向通信をサポートしています。AIモデルからデータを「読む」(クエリする)だけでなく、モデルが外部に「書き込み」や操作指示を送ることも統一された方法で行えます。たとえばモデルがカレンダーの予定を変更したり、メール送信をトリガーしたりするアクションも、MCP上のツール呼び出しとして実現できます。リアルタイム性にも優れており、MCPクライアントとサーバーの接続を維持することで継続的な文脈アップデート(データの変更を逐次AIに反映する等)が可能になります。これは従来の静的なAPI呼び出しにはない特徴で、対話的で状況に応じた応答生成に寄与します。 - モデルやサービス選択の柔軟性: MCPは特定のベンダーに依存しないオープン標準のため、LLM(AIモデル)の切り替えやツールの変更が容易です。MCP経由で文脈を与える仕組みさえ統一しておけば、背後のAIモデルをAnthropic Claudeから別のLLMに変える場合でも大きな修正なしで対応できます。逆に、データソース側についても新旧様々なシステムをMCPサーバーとして差し替え可能です。これにより、システム設計上の将来の変更やベンダーロックインへの耐性が高まります。 - セキュリティとアクセス制御のベストプラクティス: MCPは企業内での利用も想定されており、統一された認証・認可や利用ポリシーの適用がしやすくなっています。従来、各サービス毎に異なるセキュリティ設定(APIキー管理やアクセス権限設定)を実装・監視する手間が減り、プロトコルレベルで安全性・機密性の確保を図れます。加えて、MCPサーバーを自社インフラ内にホストすることでデータを手元に置いたままAIに活用させることもでき、データガバナンスやプライバシー面での安心感も得られます。 - 保守性・持続可能性: オープンな仕様でありコミュニティ主導で改善が進むため、時間が経っても破綻しにくくデバッグもしやすい統合となります。組織が新しいデータソースを追加していっても、既存のMCPサーバー群に新サーバーを足すだけで対応可能であり、その際他の部分に手を入れる必要は基本的にありません。この「一度作って共有したコネクタを皆で使い、少しずつ良くしていく」というエコシステムは、長期的に見て非常に持続可能(サステナブル)です。 以上のようにMCPを活用することで、AIシステムはより豊富で関連性の高い文脈に基づいて動作できるようになります。モデルはトレーニング時点では持っていなかった最新情報や固有の知識にもアクセスできるため、回答の正確性や専門性が向上し、ユーザーにとって有益な結果をもたらします。また開発者にとっては、複雑な統合をシンプルに実現できることで新しいアイデアの実装スピードが上がり、AIを組み込んだアプリケーション開発の生産性を高める効果も期待できます。

ユースケース:AIシステム開発・運用でのMCP活用例

MCPが具体的にどのように使えるのか、いくつか想定されるユースケースを通じて紹介します。開発者やエンジニアがAIシステムにMCPを組み込むことで可能になるシナリオは多岐にわたりますが、代表的なものをピックアップします。 - 複数サービスを横断するパーソナルアシスタント: 例えばユーザーのスケジュール管理や旅行計画を手伝うAIアシスタントを考えてみます。従来であればこのAIがカレンダーから予定を読み出し、航空券予約サービスでフライトを取り、メールで確認を送るには、それぞれGoogle Calendar API、航空会社API、メールAPIと個別の統合実装が必要でした。しかしMCPを利用すれば、カレンダー、予約、メールといった各機能のMCPサーバー(既製または自作)に接続するだけで、AIがそれらを統一的に扱えます。結果として、ユーザーの空き日程を確認して航空券を予約し、確認メールを送るといった一連の操作がシームレスに実現します。MCPのおかげでアシスタント側の実装は簡潔になり、ユーザーへの応答も必要な情報が揃った的確なものとなるでしょう。 - 高度なIDEにおけるコーディング支援AI: プログラミングの現場でも、MCPは威力を発揮します。たとえばAIによるコード補完やリファクタリング提案を行うインテリジェントなIDEを構築する場合を考えます。通常なら、エディタをファイルシステムやGitのバージョン管理、パッケージマネージャ、各種言語のドキュメントシステムなどに個別に接続するプラグイン開発が必要です。しかしMCP対応のIDEであれば、これら周辺ツールへのアクセスが単一のプロトコル経由で可能になります。具体的には、プロジェクトのソースコードや関連ドキュメントを読み込むファイルサーバー、Gitリポジトリの履歴やIssueを参照・更新するGitサーバー、パッケージ依存関係を検索するツールサーバー等と接続し、AIがコードの文脈を深く理解した上で補助を行います。これにより、AIは現在開いているコードファイルに関連する他のモジュールの内容を把握したり、エラーに対応するドキュメントを即座に参照したりできます。実際、開発者向けの各種プラットフォーム(例:ZedやReplit、Sourcegraphなど)はMCPを採用し、エディタ内AI機能の文脈取得を強化する取り組みを進めています。その結果、コーディングにおけるより的確で高度な提案が少ない試行回数で得られるようになったとの報告もあります。 - 企業内情報に精通したチャットボット: エンタープライズ領域では、社内データに基づいて質問に答えたりタスクを実行したりするAIエージェントが求められています。MCPはこのような企業内チャットボットの実装にも適しています。例えば、社内のナレッジベース(Wiki記事やドキュメント)、営業データベース、従業員ディレクトリ、さらにはSlackの社内チャット履歴など、社内の様々なシステムにMCPサーバー経由で接続できます。AIはユーザーからの問いかけに応じて該当部署の最新ドキュメントを参照したり、Slack上の関連する議論を検索したりして、コンテキストを取得します。また必要に応じてチケット管理システムに新規Issueを登録したり、データベースから最新の数値を引き抜いてレポートすることも、MCPツールとして実行可能です。このようにMCP対応AIは社内の“生きた”データに直接アクセスできるため、常に最新かつ社内事情に即した回答を返すことができます。Anthropic社のClaudeを用いた例では、Googleドライブの文書やSlackメッセージをMCP経由で参照することで、モデルの回答がより最新の事実に根ざした内容になったことが報告されています。 - 自律エージェントによるタスク自動化: 将来的な展望として、MCPはAIエージェントが自律的にツールを発見・活用してタスクをこなす基盤になるとも考えられます。例えば、プロジェクトマネジメントのシナリオでは、AIがまずMCPサーバー経由でGitリポジトリから最近のコード変更を確認し(バージョン管理サーバー)、次にチケット管理サーバーに接続して関連チケットを更新し(Issueトラッカーサーバー)、さらに必要に応じてCI/CDサーバー上でテストを実行する、といった複数のシステム横断の処理を人手を介さず連続で行えます。MCPの標準化カタログ(ディレクトリ)の中からエージェントが適切なツール群を選び出し、順次呼び出していくことで、複雑なワークフローも一貫した形で自動化される未来像が描かれています。このようなエージェント主導の統合が現実化すれば、AIは単に指示に応じて動くだけでなく、自ら必要な行動を決定して実行に移す、より高度な能動的システムとなるでしょう。 以上のように、MCPは幅広い応用が可能であり、個人の生産性向上ツールから企業システム統合、さらに自律的AIエージェントまで多彩なシナリオで有用です。現在すでに、一部の先進企業での導入も始まっています。例えば金融サービス企業のBlock社や宇宙産業のApollo社は自社システムにMCPを統合済みであり、前述の開発ツール企業以外にもCodeiumなどが自社プラットフォームへの組み込みを進めています。MCPはAIと既存システムの架け橋として、開発・運用現場で今後ますます活躍していくことでしょう。

MCPの技術的な強みと制約

新しい標準技術であるMCPには、導入を検討する上で知っておくべき強みと制約があります。それらを整理すると次のとおりです。 強み(技術的優位性): - エコシステムの統一と拡張性: MCP最大の強みは、上述の通り単一の標準プロトコルで多様なツール連携を実現できることです。これによりシステム全体の構成がシンプルになり、新たな機能追加もプラグアンドプレイ的に行えます。共通仕様に乗ることで、異なる開発者間でも相互運用性が確保され、「使い捨てではない」持続的な統合が実現します。また動的な機能発見や双方向通信をネイティブにサポートするため、AIによる柔軟な振る舞いが可能で将来的な拡張性も高いです。 - 文脈を取り入れた高精度なAI: モデルに最新かつ詳細な文脈を与えられることで、回答の関連性・精度が向上することは大きな利点です。トレーニング時に無かった情報や組織特有の知識を都度参照できるため、モデルが常に現実世界の状況に即したアウトプットを生成できます。結果としてユーザー体験の質も上がり、AI活用の幅が広がります。 - ベンダーロックインの回避: オープン標準であるため、特定のクラウドやサービスに依存しません。社内システムに組み込む際も、後から別のAIモデルに乗り換えたり社内データソースが変更になった場合でも、MCP対応さえしていれば柔軟に切り替えができます。このポータビリティは長期運用上の安心材料となります。 - セキュリティ管理の一貫性: MCPは認証や権限管理のフレームワークを含んでおり、統一されたセキュリティポリシーの適用が可能です。各連携先ごとに異なるセキュリティ対策を実装・監視する手間が減り、プロトコルレベルで安全性・機密性の確保を図れます。加えて、MCPサーバーを自社インフラ内にホストすることでデータを手元に置いたままAIに活用させることもでき、データガバナンスやプライバシー面での安心感も得られます。 - コミュニティとツールの充実: 2024年末の公開以来、Anthropic社だけでなく有志や各企業がMCPサーバーの実装を公開し始めており、GitHub上にはGoogle DriveやSlack、GitHub、Postgresデータベース等のオープンソースMCPサーバー実装集が提供されています。公式のSDK(JavaやKotlin向けなど)も整備され、ドキュメントやチュートリアルも順次拡充されています。そのため比較的短時間で試行や導入を開始できる環境が整いつつあります。 制約・課題: - コンテキスト長の制限: MCPによってどれほど外部データを参照できても、最終的にモデルが処理できるトークン長(コンテキストウィンドウ)には限界があります。大量の文書やデータを一度に読み込めばモデルの入力サイズ限界を超えてしまうため、現実には関連部分の抽出や要約が必要です。MCPサーバー側で賢くデータを絞り込む設計(例えばクエリや検索機能の実装)が求められますが、これはプロトコル外の課題であり、モデルに適切な量の情報を与える工夫が引き続き必要となります。 - オーバーヘッドと複雑性: MCPは便利な抽象化を提供しますが、その分システム構成が複層的になります。AI→クライアント→サーバー→データソースという経路を経るため、単純に直結したAPI呼び出しと比べれば通信のオーバーヘッドが増えます。また導入に際してMCPクライアント/サーバーの構築や運用といった初期コストも発生します。小規模で厳密に制御されたタスク(例えば単純なデータ取得だけを行うケース)では、かえってMCPを挟まない方が効率的な場合もあるでしょう。 - 高度な制御には不向きな場合: AIが動的にツールを選択し実行するMCPの特性上、処理内容の予測可能性は従来の決め打ちスクリプトより低くなります。厳密な順序制御やリアルタイム性能チューニングが要求されるミッションクリティカルな場面では、すべてをAI任せにせず専用APIによる絞り込まれた機能提供の方が安心なこともあります。特に高い決定性や微細なチューニングが必要なケースでは、MCPによる大まかな指示よりも低レベルAPIの方が適している点は留意が必要です。 - 採用の成熟度: MCP自体はまだ新しい提案であり(2024年11月初公開)、現時点でサポートしているAIプラットフォームやツールは限定的です。AnthropicのClaude系が先行して対応しているものの、他の主要LLM(例えばOpenAI GPT系など)で直接MCPが話せるわけではありません。ただしMCPクライアントを介せばどのモデルでも利用可能な設計ではあるため、今後対応アプリケーションが増えていくにつれて事実上の標準として広まる可能性があります。現に「AIツール間連携の新標準」として業界で注目を集め始めており、早期からキャッチアップしておくことで将来の優位性を得られるでしょう。導入判断にあたっては、自社のニーズに対して現在利用可能なMCPサーバーの充実度や、対応モデル環境との相性を見極めることが重要です。

おわりに

MCP(Model Context Protocol)は、これまで閉じがちだったAIと外部データとの世界を結びつける強力な汎用インターフェースです。直感的な比喩で表現すれば、様々なサービスに散らばる情報への「統一コンセント」をAIに提供するイメージと言えるでしょう。技術的にはクライアント-サーバー方式の堅実な設計とJSON-RPCによる標準化に支えられ、汎用性と拡張性を備えたプロトコルとなっています。 MCPを活用すれば、エンジニアはAIシステムに実世界の文脈を注入し、モデルの能力を最大限に引き出すことができます。統一プロトコルのおかげで開発・保守コストを抑えつつ、新たなデータソースや機能追加にも柔軟に対応できるため、今後登場するであろう高度に文脈対応したAIエージェントの基盤としても期待されています。もちろん、用途によっては従来のAPIによる堅実な実装の方が適する場合もありますが、環境が複雑化し文脈が重視される現代のAI応用において、MCPが提供する価値は非常に大きいと言えるでしょう。 現時点では黎明期にあるMCPですが、オープンソースコミュニティや企業の参加によりエコシステムが急速に整いつつあります。公式サイトやGitHubリポジトリには詳細な仕様やチュートリアル、サーバー実装例が公開されているので、興味を持った方はぜひ参照してみてください。