はじめに – 「毎回記憶喪失になるAI」ってどうなの?
「AIエージェントに長期記憶が必要だ」って言われると、最初に思いつきませんか?
「いや、AIって全部わかってるんじゃないの?」って。
私もそう思ってました。
でも実際にLLM(大規模言語モデル)のエージェントを使い倒してみると、意外と
物忘れがひどいんですよね。
たとえるなら、前回の打ち合わせでさんざん盛り上がったはずなのに、次に会ったときには「え、あなた誰でしたっけ?」とすっかり忘れられる、悲しすぎるシチュエーション。
あれ? 毎度の会話でリセットされてる…これは結構ツラい。
特にAIエンジニアの皆さんは、チャットボットだの業務自動化だの、いろんなシステムを組もうとしてるはずです。
そこに「AIが記憶を維持する仕組み」がないと、「この前のデータを踏まえて今度はこう動いてほしいんだけど」という話が成立しません。
だって毎度プロンプトで前の状況説明から始めるんですよ? 「以前の情報を全部貼り付けて対話」するとか、もう面倒くさすぎるかよ? って感じ。
というわけで、今AI業界で超注目のキーワードが「長期メモリ」*
なんです。
ステートレス(状態を持たない)だったLLMが、「過去の会話を思い出して継続学習する」っていうワクワクする未来がそこに広がっている。
本記事では、そんな*AIエージェント長期記憶の最先端動向を、AIエンジニア視点でごっそりまとめます。
「そもそも長期メモリってどんな仕組みなの?」
「最近リリースされたツールって何があるの?」
「実際どうやって業務に活かすの?」
こういう疑問にビシッとお答えするので、途中で飽きずに最後まで読んでいただけると嬉しいです。
序章:なぜAIに長期メモリが求められるのか?
「健忘症エージェント」問題
LLMってすごい性能なのに、
会話が終わるとスパッとリセットされる。
そのせいで「ごめん、前回のあれどうだったっけ?」みたいな確認が全くできないわけですよ。
私たちが「おいおい、友達なら昨日の話ぐらい覚えとけよ?」と思うところでも、まったく覚えてない。
一言で言うと
健忘症エージェントになってしまうんですね。
人間に例えると、会うたびに記憶喪失になっている友人。
さすがに毎回ゼロスタートで同じ説明を要求されたら、付き合い切れませんよね?
リアルに欲しくなる「継続学習」要素
AIエンジニアがエージェントを実用化しようとすると、この記憶の欠落がものすごい壁になります。
たとえばカスタマーサポートの自動化を考えてみましょう。
サポートのAIが「前回ご質問いただいた件ですが…」みたいに続きから話せれば便利なのに、何も覚えてないと「毎回ヒアリングからやり直し」でムダが多い。
あるいは社内のヘルプデスクBOTにしたってそう。
前回、社員Aが聞いたことや、部署ごとのルールみたいなものを一度BOTが学習していれば、次からサクサク答えられる。でもリセットされてたら学習もクソもないわけです。
ここで登場するのが
長期メモリ技術。
最近、海外スタートアップや大手もこぞって、この領域に参入しまくってるんですよね。
2025年になってますますブームが加速中。
AIエンジニアとしては、この流れを押さえておくとプロジェクト提案や実装で「おっ、君、イケてるじゃん」となるはずです。
本論:2025年の「AIエージェント長期記憶」最新動向
ここからが本題です。
今どんなサービスやフレームワークがあるのか、要点を整理しながら一緒に見ていきましょう。
なるべくAIエンジニアの皆さんに刺さるように、技術的観点や導入メリットを中心に解説します。
1. Mem0(メモゼロ)
特徴:オープンソースのメモリレイヤー
まずご紹介したいのが「Mem0(メモゼロ)」。
何やら「AIエージェントの記憶装置」として開発されたオープンソースのレイヤーです。
2023年創業のスタートアップが作っていて、2024年にシード資金調達し、2025年1月には「メモリエクスポート機能」をリリース…と地道にバージョンアップを重ねている模様。
なんと言ってもオープンソースなので、小規模プロジェクトでも導入しやすいんですよね。
「お金をかけずにとりあえず試してみたい」っていうケース、AIエンジニアなら多いんじゃないでしょうか?
中身はグラフ+ベクトル+キー値ストアのハイブリッド
Mem0が面白いのは、
複数の手法を組み合わせたハイブリッドアーキテクチャを掲げているところ。
- 重要なエンティティ(人名・概念など)はグラフDB的に管理し
- 類似検索はベクトルDBで実行し
- プロンプトIDやメタデータはキー値ストアでサクッと取る
みたいに、過去の会話や設定を最適な形で検索してくれる仕組みがあります。
一度仕組みを作ってしまえば、エンジニアが全部手動で「どの記憶を参照すべきか?」とやらなくても
自動で都合のいい記憶だけ渡してくれるんですね。
これが「エージェントが長期的に進化する」ポイントでもある。
ユーザーが何度かやりとりしてくると、Mem0が勝手に学習して「重要そうな情報」を記憶に刻んでいくわけですよ。
AIエンジニア的には、面倒なメモリ管理のロジックを自作しなくて済むのが大きいメリットです。
開発者フレンドリー&自社管理OK
Mem0はまだ大規模エンタープライズ向けの実績は少ないみたいですが、「自社サーバーで完結したい」「オープンソースならではの柔軟なカスタマイズをしたい」みたいな需要にはピッタリでしょう。
中小企業やスタートアップでも、
プライバシーやデータ保持にこだわりたいときに選択肢となりそう。
「試しにクラウド版でポチッと使ってみて、よさそうならオンプレ導入」という流れもアリ。
まさにAIエンジニアが「とりあえずプロトタイプを構築してクライアントに見せる」にはうってつけかもしれません。
2. LangMem(ラングメム by LangChain)
特徴:LangChainエコシステムの長期メモリ管理SDK
次は「LangMem」。
あのLangChainが2025年2月にリリースした長期メモリ用のSDKでして、LangChainユーザーには注目度高いですよね。
LangChain自体はLLM活用のフレームワークとして有名ですが、会話履歴や外部知識ベースへのアクセスを扱うためのChainをゴリゴリ書くときに便利です。
そこに
長期記憶というキーワードが加わったのがLangMem。
何が嬉しいか?
-
既存のLangChainチェーンにプラグイン感覚で組み込める
-
対話から重要情報を抽出してプロンプトを自動更新
-
事実やイベントを長期的に保持(いわゆるSemantic Memory)
-
ユーザーの好みや手続き的なノウハウもプロシージャルメモリとして保持
LangChainのChainにサクッと差し込むだけで、「いちいちすべての履歴を投げなくても、適切な情報だけ思い出してくれる」感じになります。
さらに裏側のストレージは自由に選べる(データベース非依存)設計なのも大きい。
普段Weaviate使ってる人ならWeaviateを裏で使うこともできるし、Mem0に接続してハイブリッドにすることもできる。
プロシージャルメモリの自己改善がアツい
LangMemでは、ユーザーとのやりとりを通じて「こんな対応がうまくいった」「これは失敗した」というフィードバックを反映し、エージェントの“基準となるプロンプト”を自動更新できる仕組みがあります。
これ、面白いですよね。
例えばカスタマーサポートBOTなら、同じ質問をされたときに前回の回答の評価を見て「もうちょっと詳細を回答したほうがいいかな」とプロンプトを書き換えていく。
つまり使えば使うほど賢くなるエージェントを作れるわけです。
AIエンジニアが頑張ってフィードバックループを設計しなくても、LangMemがそれなりにベストプラクティスを用意してくれるので、導入のハードルが下がるのがポイントですね。
3. Zep(ゼップ)
特徴:エンタープライズ向け長期メモリクラウド+Graphiti
Zepは2024年にY CombinatorのW24バッチから誕生した、割と新興のスタートアップ。
しかし企業向けとしてガツンと使ってもらう前提で作られており、
SOC2 Type II認証を取っていたり、オンプレミス導入OKだったり、とにかくセキュリティやスケールを意識した設計が特徴です。
最初はチャット履歴の事実抽出からベクトル検索で瞬時に拾うサービスでしたが、その後「Graphiti」というオープンソースの
時間知識グラフエンジンを作って、やたらかっこいい感じに進化してます。
「時間知識グラフ」って何?
ざっくり言うと、会話内容やユーザー情報を
グラフ構造で表現し、しかも「いつどの属性が変わったか」という時間軸まで管理する仕組み。
たとえば「ユーザーAは2024年6月までは製品Xプランを使っていたが、2024年7月以降は製品Yプランに切り替えた」なんて情報をノードとエッジで繋いで記憶しておけるわけです。
ベクトル検索だけではわかりにくい
因果関係や属性変化をしっかり管理できるのは大きな強み。
さらにZepの公式いわく、「全履歴をガバーッとプロンプトにぶち込むよりも効率的で、
推論遅延を90%削減できた」とか言ってます。
大規模ユーザー数にも耐えられる(「数百万ユーザーにスケールした事例」を想定)らしいので、
大手企業の基幹級チャットbotとかでもいけるんでしょう。
AIエンジニアがエンタープライズ案件を手掛けるなら、Zepは要チェックかもしれません。
4. Weaviate Personalization Agent
特徴:検索・推薦を個人の嗜好でパーソナライズ
Weaviateってもともと強力なベクトルデータベースですよね。
そこに「Personalization Agent」という機能が2025年3~4月あたりに追加されました。
ユーザごとの行動履歴や好みを考慮して、検索結果をパーソナライズしちゃうというサービスです。
ECサイトやメディアのレコメンデーションで使うイメージを持ってもらうとわかりやすいでしょうか?
例えば「この人は辛いものが好きだから、レシピ検索結果の上位に激辛料理を表示する」とか、そういう個別最適化をリアルタイムにやってくれます。
個人的にはこれ、単なる「似てる商品を推薦します」レコメンドエンジンとは一味違う期待感があります。
なにせ
LLMの会話力×Weaviateの検索力の融合ですから、ユーザーがチャットしながら「前はこういうのが好きだったけど最近は…」なんてリアルタイムで言ってきても、それを反映しておすすめを更新してくれる仕組みを作れる。
ただし、対話履歴を細かく覚えるというよりは、どちらかというと
嗜好情報&閲覧履歴をベクトル化してパーソナライズするのが主眼。
なので「ガチでチャット履歴を全て理解して長期メモリを構築」というよりは、検索特化の長期記憶に近いです。
つまりZepやMem0のように「どんな会話情報も丸っと覚える」のとは少し別路線ですね。
でも、ショッピング系やコンテンツプラットフォームならかなり有力な選択肢じゃないでしょうか。
5. その他の新興ツール – Memobase、Letta、OpenAI Swarm など
2025年には他にもいろいろ新興勢力が出てきています。
-
Memobase:2025年1月公開のオープンソース基盤。ユーザーごとのプロファイルを管理し、LLMが自由にメモリ参照できる設計。
-
Letta:バークレー発の長期記憶中核エージェントフレームワーク。大規模資金調達してる。
-
OpenAI Swarm:OpenAIがエージェント実行環境として公開。ただし、メモリレイヤーはユーザ側が用意してね、というスタンス。
いろいろ選択肢があるからこそ、
自分の案件にマッチしたものをどう選ぶかがAIエンジニアの腕の見せ所。
今挙げたZepやMem0は「メモリ管理の専用ミドルウェア」的な立ち位置なので、結局そこに行き着くことが多い印象ですね。
ユースケース:長期メモリを持ったAIエージェントが実務でどう活躍する?
さて、ツールの名前が大量に出てきて「ふーん、いっぱいあるんだね」で終わっちゃうのはもったいない。
どういう実務シーンで活かせるか、具体例を見てみましょう。
AIエンジニアがクライアントに提案しやすいものをピックアップします。
1. カスタマーサポートの文脈保持
定番ですよね。
問い合わせチャットボットに長期メモリを与えると、「前回の問い合わせ内容を覚えているサポート」ができるようになるんです。
これってユーザー体験が段違いに向上しますよね。
「前回の続きから聞きたいんだけど」という要望にスムーズに応じてくれると、あちらも満足度爆上がり。
一方で、メモリがない場合は毎回「購入番号をもう一度教えていただけますか?」とか言うわけで、うんざりする。
これは誰もが嫌がるはずです。
Mem0の公式ブログなんかを見ると、サポート業務の問い合わせを半分以下に削減できた例があるみたいで、これはすごく説得力があるユースケース。
2. パーソナルAIアシスタント/コンパニオン
個人向けにAIを提供する場合、長期メモリがあるかないかで“使いやすさ”が全然違うんですよね。
たとえばメンタルヘルス系の対話アプリ「Jaimee AI」では、Zepのメモリを組み込んでユーザーの感情の流れを覚えさせることで、次回の相談で「前回はこういう悩みでしたね、あれからどうですか?」とフォローできる。
人間のカウンセラーに近い対応をAIがやってくれると、ユーザーは「このAI、私のことわかってくれてる!」と感じるわけです。
そうなると信頼感が高まるし、継続利用率も上がる。
つまり長期メモリって、
“AIを育てる”楽しさも提供できるんですよ。
スタートアップが「個人の好みに合わせて進化するAIチャット」を提供するときも、Mem0などのオープンソースを活かせば実装コストはグッと下がりますよね。
3. 業務エージェントの引き継ぎと学習
企業内で営業支援や社内ヘルプデスクをAIエージェント化するケースが増えています。
そこに長期メモリが加わるとどうなるか?
- 顧客ごとの連絡履歴や購買データをエージェントが覚えている
- 前回の商談内容を踏まえた提案ができる
- ナレッジベースを参照しながら「この質問にはこう答えるべき」というルールを学習する
結果、エージェント自身が成長して「初期の頃はちょっとトンチンカンな回答してたけど、最近は社内ベテラン社員並みの答えをするようになった」みたいなことが起きる。
これはAIエンジニアとしては「導入後の改善サイクル」を考える上で大きなポイントです。
最初にスモールスタートで導入して、使いながらフィードバックを回して、エージェントを賢くしていく。
長期メモリがないとそういう育成方針は難しい。
4. チャット履歴の永続化と分析
長期メモリを入れておくと、会話ログが全部保存され、かつ
重要な部分が構造化されていくという副次的なメリットがあります。
法律・医療・教育など継続対話が当たり前の分野では、これが特に強みになる。
例えば教育の対話チューターで、学生の回答履歴や躓きポイントを延々と覚えておいて、そこから指導内容をパーソナライズするなんてことも可能。
Mem0が実装した「メモリエクスポート機能」でチャット履歴をデータとして取り出して分析すれば、学習効果の測定や方針の改善に活かせますよね。
5. レコメンデーションへの応用
Weaviate Personalization Agentの例にもある通り、
ユーザーの嗜好を長期的に学習してレコメンドするのはとても強力です。
たとえばECサイトで「何度も似た商品をチェックしてるけど最終的にこれを買った」というデータを蓄積し、LLMに対する追加指示として渡せば、よりパーソナライズされた商品提案を会話の中で実現できます。
既存の協調フィルタリングだけでは捉えにくい
会話の文脈や嗜好の変化を拾えるのがポイント。
とくに「理由を説明しながら商品おすすめしてほしい」とか、対話で購入アシストしたい場面では長期メモリの価値が大きいです。
長期メモリの技術トレンド:構造化・メタデータ管理・自己改善
ここまでで長期メモリがどれだけ有用かイメージはついたと思いますが、もっと技術寄りの話もやりましょう。
AIエンジニアとしてはどうやって実装するのか?が気になるところですよね。
1. Temporal Knowledge Graph(時間知識グラフ)
Zepがやってるように、単なるベクトル検索だけじゃなく
知識グラフでエンティティ間の関係を保持し、しかも
時間軸まで管理する手法が注目されています。
これ何がいいかというと、
因果関係や属性変化みたいなものを自然に表現できる点。
ベクトル検索だと「文章が似てるかどうか」ばかり注目するけど、時間の流れでユーザーが変化していく様子は扱いにくい。
グラフにすると「このユーザーは一定期間Xという嗜好を持っていたが、途中でYに変わった」というのがノードとエッジでしっかり描けます。
「ちゃんと時系列でユーザー状態を管理したい」「事実の変化をトラッキングしたい」なら、こういうアプローチも選択肢に入れておくと良さそうです。
2. メモリの種類とメタデータ
LangMemでは長期記憶を
セマンティック、エピソード、プロシージャルに区別し、それぞれ違う形で保存すると言います。
-
セマンティックメモリ:ユーザーのプロフィールや確固たる事実
-
エピソードメモリ:対話セッションの要約・出来事
-
プロシージャルメモリ:学んだ手順や方針、挙動ルール
こうすることで検索や更新が効率的になるし、「どこまでを定型事実として扱い、どこを一時的情報として捨てるか?」のポリシーを立てやすい。
さらに、タイムスタンプや出典メタデータをつけることで、「最新情報を優先」「特定のユーザーが言ったことだけ参照する」などのフィルタリングが可能になります。
要は
メモリを“雑多な文章”の塊で残すのではなく、整然とタグ付けして管理するのが今のトレンド。
AIエンジニア的には「どこまで自動タグ付けさせるか」「どうやって検索に使うか」を設計する楽しみがありますね。
3. 自己改善と記憶ループ
長期メモリがあると、エージェントが過去の失敗や成功を学んで
自己進化する…そんなロマンがあります。
実際、2024年末あたりに発表された研究でも「長期メモリとフィードバックを組み合わせると、ユーザー固有のニーズに適応するエージェントが作れる」って結果が出たようです。
AIエンジニアとしては、ここに
仕掛けを作る余地がある。
例えば「ネガティブ評価をもらった回答は、プロシージャルメモリ上で修正を加える」とか、Mem0なら「ユーザー評価に応じて応答の重み付けを変える」とか。
Redis社の専門家曰く「エージェントはハードディスクのように過去のフィードバックを蓄えて、ユーザー好みに適応していく」のが理想とのこと。
プロジェクトとしては導入後も継続的に学習が進み、
“育成AI”がビジネスを支えるって未来もあり得ます。
4. 忘却とメモリ最適化
ただし「全部覚えればいい」ってものでもないのが面白いところ。
情報が増えすぎるとノイズや矛盾がたまってきて
逆に邪魔になる可能性もある。
だから「一定期間で古い情報を消す」「重要度が低い記憶は要約して圧縮する」といった“忘却”の設計も重要なんです。
具体例を挙げると、ユーザーの住所とか契約プランみたいに
最新状態だけあればいいものは古い記憶を破棄してOKだし、感情的な発言は一定期間で自動削除してもいいかもしれない。
一方、「クレーム対応で炎上した経緯」なんかは将来の改善のために取っておきたい…みたいな判断もあるでしょう。
このあたりはツールに任せっぱなしではなく、
AIエンジニアが明確なルールを決めて設定するのがポイント。
本格運用するなら、膨大なユーザーの膨大な会話を全て保持するのはコスト的にも厳しいですしね。
導入を検討する際のポイント:Mem0、Zep、LangMem、Weaviateの比較
「いっぱいツールがあるのはわかったけど、どれがいいの?」と迷いますよね。
ここではメジャーどころの4つ(Mem0、Zep、LangMem、Weaviate)を比較する際の視点を整理してみましょう。
1. Mem0
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オープンソース&クラウド版あり:小回りが利き、データを自社管理したい中小企業にも向く
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ハイブリッドアーキテクチャ:グラフ+ベクトル+キー値で柔軟に検索
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まだ大規模企業実績は少なめ:スケール面で不安な場合もある
-
高速実装しやすい:PoC → 小規模運用に適している
「オレたちはまずOSSで試すぜ!」というAIエンジニアには魅力的。
一方、大規模エンタープライズ要件(監査ログ、超高負荷環境など)だと後述のZepに軍配が上がる場面があるかも。
2. Zep
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エンタープライズ向けに強い:SOC2認証、オンプレ対応、数百万ユーザー規模での実績アリ(と公言)
-
時間知識グラフ:属性変化や時系列管理が得意
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比較的新しいが勢いアリ:Y Combinator出身、Graphitiのオープンソースなどユニーク機能
-
LangChainとも連携:専用APIの導入コストは要チェック
高負荷やセキュリティ要件が高い企業案件ではZepが本命。
「そんなにでっかい環境でもないしOSSでやりたい」ならMem0やLangMemを使うか、という住み分けになりそう。
3. LangMem (LangChain)
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LangChainユーザーには自然な選択肢:既存のChainに統合しやすい
-
ストレージ非依存:好きなDBやMem0と組み合わせOK
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自己学習ロジック(プロシージャルメモリ)が魅力的
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あくまでSDKなので運用環境は自前構築:そこが面倒ならZepのようなサービスを選ぶ手もアリ
LangChainエコシステムどっぷりのAIエンジニアなら、まずはLangMem一択でしょう。
運用ツールや可視化UIなどは標準でそんなに充実してないかもしれないので、必要に応じて追加構築が要る点は注意。
4. Weaviate Personalization Agent
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検索・推薦特化:ユーザーの嗜好や履歴を反映し、ベクトル検索の結果をパーソナライズ
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ECやコンテンツプラットフォーム向け:チャットで商品おすすめ、記事レコメンド
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他の長期メモリサービスと併用もアリ:会話全体を覚えるというよりは嗜好ベース
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Weaviate Cloudを使うならスケーラビリティ◎
レコメンドエンジンとしての完成度が高いので、「ユーザー別に検索結果を変えたい」ケースで真価を発揮します。
ガチの対話履歴管理をやりたいなら他を組み合わせるといいかも。
AIエンジニア視点:実装する上で気を付けること
ここまで紹介したとおり、長期メモリを使えばエージェントは格段に賢くなり、ユーザーとの継続的な対話が可能になります。
ただし、実際にプロジェクトに落とし込むときには以下のようなポイントも押さえておきましょう。
-
データプライバシーとセキュリティ
会話ログには機密情報が含まれる可能性大。
- クラウドサービス利用時は暗号化や認証、オンプレ選択肢を検討。
- とくに企業案件では監査ログやコンプライアンス要件に注意。
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コストと効率
長期メモリによってLLMへのプロンプトサイズを絞れる→API使用量削減も期待できる。
- ただしベクトル検索やグラフクエリを頻繁に叩く分のインフラコストもある。
- どれぐらいデータが溜まるのか、どれぐらい検索が発生するのかを見積もる。
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スケーラビリティ
ユーザーが増えれば増えるほどメモリデータも爆増する。
- オープンソースの場合は自前でスケールアウト設計を考える必要あり。
- ZepやWeaviateのクラウドサービスなら大規模対応も比較的楽だが費用も要確認。
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導入目的に応じた選択
レコメンド中心ならWeaviate Personalization Agent、
- エンタープライズのガチ運用ならZep、
- サクッとOSSで始めたいならMem0、
- LangChainベースならLangMem、
- といった使い分けをイメージ。
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メモリ設計(忘却ルール含む)
何をどこまで覚えて、どれをいつ忘れるのか?
- 要約で圧縮する場合、原文との突合はどうするか?
- 最新情報が優先される属性はどう管理するか?
-
ユーザーストーリーとの擦り合わせ
結局「ユーザー視点でどんな継続性が必要か?」が大事。
- 「前回の問い合わせ内容を覚えて対話する」「今後の会話に活かす」の具体例を事前に洗い出すと、メモリ要件が明確になる。
こういった点をしっかり抑えておくと、クライアントに対しても「こういう仕組みでメモリ管理できます」「これぐらいの規模だとZepがいいですね」といった提案が説得力を持つでしょう。
結論:長期記憶がAIエージェントを人間味あふれるパートナーに変える
さあ、ここまで長々と語ってきましたが、まとめましょう。
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LLMエージェントは記憶を持たないと“毎回物忘れする”不便な存在になりがち。
-
長期メモリを導入すれば、過去の文脈を踏まえた高度な対応が可能になり、ユーザーとの関係性を深められる。
- 2025年現在、
Mem0、Zep、LangMem、Weaviateなど魅力的なツールが多数登場中。
- 「エンタープライズ向け」「OSS重視」「LangChain連携」「レコメンド特化」など、それぞれ強みが違う。
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ユースケースとしてはサポート、社内ヘルプデスク、個人コンパニオン、レコメンデーションなど幅広い。
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導入時にはメモリの構造化、忘却ポリシー、セキュリティ、コストなどをきちんと設計すべし。
AIエンジニアにとっては、「長期メモリってなんぞ?」を理解し、使いこなせるかどうかが大きなアドバンテージになるはずです。
これまで「AIはすぐ忘れるからフロー的に工夫しよう…」みたいに苦労してきたプロセスが、専門のメモリツールを使うことで一気に進化する可能性がある。
さらにエージェントが
自己学習していく余地も出てくるので、運用フェーズで「どんどん良くなっていく」AIを実感できる楽しさもあります。
まさに「人間味あふれるAI」となるかどうかは、長期記憶にかかっていると言っても過言じゃありません。
では、最後に問いかけ。
あなたのプロジェクトやクライアントで、エージェントが「記憶のない奴」で困っていることはありませんか?
もし「あ、あるある」と思い当たるなら、ぜひこの長期メモリのアプローチを検討してみてはいかがでしょう。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
私は今、せっかく書いた1万文字超のこの情報を、
絶対に忘れないAIにインプットしてみようと画策しているところです。
それがきっと、次の記事を書くときに役立つ…はず。
参考リンク
-
Enhancing AI agents with long-term memory: Insights into LangMem SDK, Memobase and the A-MEM Framework | VentureBeat
-
Memory in AI Agents - by Kenn So - Generational
-
Mem0 Blog
-
Mem0 - The Memory layer for your AI apps
-
Zep - LLM Memory API
-
Weaviate Personalization Agent | Weaviate
-
LangChain - Changelog | LangMem SDK for long-term agent memory